執事の特権
"乃木坂乙矢"は姿形は大変よく見目麗しい27歳で乃木坂製薬の経営企画本部別室室長だが、度を超した潔癖性で何かにつけて手を洗い、手袋を外すことはなかった。
営業職に応募したのにどういうわけか秘書の採用研修ということで彼の屋敷内で住み込むことになった"原田仁"も手袋着用を命ぜられ、乙矢の半径1メートル以内に近寄ることを禁じられて、彼の身の回りの世話をする日々が始まった。
原田は相手を思いやり、その心情を汲んで手助けをしてくれる度量の深いいい男だと思う。対する乙矢は毒舌家で気分屋でわがままで独りよがりで神経質、おまけに病的なまでの潔癖性だ。
最初は精神的には乙矢よりも大人な原田が、まるで警戒心むき出しの小さな子供を忍耐強く慣らしていく感覚で乙矢に接している。相手を侮ることなく、また突き放すでもなく絶妙のバランスが乙矢との距離を少しずつ縮めていく様子がとても丁寧に、時にコミカルに描かれてある。
最初は正式採用されれば自分から話を蹴ってやると思っていた原田だが、次第に仕事の面白さに惹かれ、乙矢との駆け引きにも楽しみを覚えていくようになる。
乙矢の潔癖性はやはり心の病で原因は彼の亡くなった母にあった。彼が昔を思い出すシーンや自らの口でその様子を告げるシーンは涙が止まらない。幼い心をこんなにも傷つけるどんな理由があったというのだろうか…。
原田との出会いで乙矢の心が少しずつ癒されてきているのが感じられて本当に嬉しい。
今回特筆すべきキャラは何と言っても乃木坂家の執事、"富益一蔵"氏だ。白髪にキリッと伸びた背筋、品よく蓄えた口髭…と絵に描いた様な執事像そのものだ。加えて慧眼と抜群の情報収集能力、主をも信じさせてしまうほどの演技力、主人のどんな姿を見ても動じないその落ち着きぶり。
裏表紙に描かれた彼の姿を見て、今回の口絵はもしや…!?と思ったが、違っていた(笑)
しかし、彼は乃木坂家がこのまま絶えてしまってもいいのだろうか…?
"乙矢"というからには何処かに兄がいる…などということはないんだろうなあ…
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コメント
>"乙矢"というからには何処かに兄がいる…などということはないんだろうなあ…
なるほど考えてもみませんでした。変わった名前だなあとは思ったんですが。
エダさんといえば強い女性キャラが立っていましたが、最近は『無作法な紳士』でもそうでしたが、いい年の男性に渋い魅力が感じられるようになってきましたよね。
乙矢と仁の気持ちが少しずつ向かい合って近付いていく様子が、とても自然に受け入れられました。シリアスとコミカルが程よく、面白かったです。
TBさせていただきました。
投稿: 秋月 | 2006/02/03 01:29
>秋月さん
>>エダさんといえば強い女性キャラが立っていましたが
そう言われると…そうですね。
最近はマリさんやキワさまのような強い女性キャラよりも老練な渋いキャラの方がいい味を出していますよね。
今回はいつも以上に泣いて…それでも笑い所はちゃんとあるんですよね。シリアスな中の笑いのツボを押さえるのが本当に巧いと思います。
読み終えたあとも幸福感の残る素敵な話だったと思います。
投稿: 成田智 | 2006/02/03 23:41
こんばんは。
せつないところもあったはずなのに、読み終えてみればやけに清々しく、コメディ小説を読んだあとのような気分でした。
>富益さん
素晴らしい人でしたね。
仕事ぶりや心意気はもちろんですが、何事にも(笑)まったく動じないのには脱帽です。
私は、ジャガイモの皮むきを手伝っている仁が好きでした。
TBさせてくださいね。
投稿: リリカ | 2006/02/07 19:57
>リリカさん
読み終わって余韻に浸れる素敵な話でしたね。
あの日、ドアを開けたとき富益もきっと驚いたんじゃないかなと思うのですがそれを顔に出さないところがプロフェッショナルだな〜と(笑)
どうか健康で長生きしてほしいと思います。
投稿: 成田智 | 2006/02/08 01:12
こんばんは(^^)
今日、一気読みをいたしました。
いい話でしたねえ…なんて爽やかな読後感(^^)
富益さん(個人的事情で名前は見なかったことに…(謎))は、勝手にオヒョイさんに脳内変換されてました(^^;
投稿: ぱやん | 2006/08/08 19:46
>ぱやんさん
原田がサポートについて、少し素直になった乙矢も見てみたいと思う今日この頃(笑)
富益さん=オヒョイさんという図式に違和感を抱く人は少ないんじゃないでしょうか(笑)
名前は…誰か身近な人物とでも被っちゃったのかな(゚ー゚)
投稿: 成田智 | 2006/08/09 01:04